機動戦士ガンダムSEED DESTINY HDリマスター

 想像以上に酷い内容でビックリした。
HDリマスターなので、映像は綺麗で全く問題ない。ウワサの凸の後退もなかったし。そのせいで、時々シンとアスランの見分けが瞳の色でしかできない時があったけれど。
では何が酷いって、キラに対する主人公補正がヒドく効き過ぎているのが一つ。もう一つは、前作主人公を立てるあまり、ストーリー全てが彼に都合よすぎる展開である事。
それでも、前半はアスランに視点が寄りすぎている点を除けば、世界が戦争へと傾いていく緊迫感とか、シンの迷いながらも未来へ進もうとする意志とか、結構面白かったのだが。フリーダム撃墜以降は、それまでの全てを御破算にして、無理やりキラとラクスを英雄へと祭り上げたとしか思えない。最終回を見終わって自分が真っ先に連想したのが「シーシェパードが世界を牛耳った、あるいは民主党が軍事力を背景に一党独裁政治を敷いた世界」だからなぁ。どう考えても、デスティニープラン以上のデストピアしか想像できない。
 視点を変えて、キラ&ラクス陣営。キラはフリーダムを撃墜されどう見てもコックピット近くを貫かれた上、核動力の爆発を起こした機体に乗っていたにも係わらず、軽傷にて無事。その後、おそらく前大戦後から準備していたであろう後継機ストライクフリーダムで再び参戦、戦場を無双し再び終戦へと導いた英雄に。アスランは、再び軍を脱走しその途中こちらもコックピット近くを破壊され撃墜されるも嵐の海中から重傷ではあるものの救助され、その後おそらくSフリーダムと同時期に開発されたインフィニットジャスティスに乗り、再びプラントと敵対する道を選び終戦へと導いた英雄に。ムウは前大戦のあと何故かネオ・ロアノークとして生存、記憶を失っていたが最終戦の最中取り戻し、ファントムペイン時代のことを全く問われないまま、再び艦長と寄りを戻す。その他のアークエンジェルクルーも全員無事に終戦を迎える。
 一方、シン&デュランダル議長陣営。シンは、守ると誓ったステラを守れず、その原因であるフリーダムを一度撃墜するも、その後エースとしての活躍はするもののSフリーダムと∞ジャスティスには及ばず、共に未来を賭けた議長も戦友であるレイも最終決戦で失う。ミネルバも撃沈され、艦長も議長と共にその命を散らす。
・・・自由と正義を謳うキラ&ラクスに逆らったものは皆死んで、悪者は居なくなりました世界は平和になりましたよ、と言っているようにしか見えないんだが。
 劇中のこととしてで今後を考えると、プラントの頂点にはラクスが、オーブの頂点にはカガリが就くだろうし、どちらも先の戦争の勝利を背景に絶対的な権力を手に握ることになるだろう。となれば、彼女たちを後援していた「ターミナル」「ファクトリー」も絶大な力を手にすることに。例外中の例外である核動力搭載機である最強のMS=Sフリーダムと∞ジャスティスが守護し、浮沈艦であるアークエンジェルと平和の歌姫の旗艦エターナルを擁するラクスと、彼女と友好を結ぶ世界一の技術立国オーブに逆らえる者など、デュランダル議長亡き後存在しなくなるよな。・・・いやホントどちらが正義だったのやら。歴史は勝者が作る、後の世で正邪を逆転して伝えられるのはよくあることではあるが。

 結論として、今作主人公対前作主人公、戦争の是非、力を持つ意味、未来をどう描きそれを為していくか、などなど、物語の種は前作同様興味深いのだが、それを芽吹かせる事ができなかった、ちょうど劇中の種割れのように弾けて消えてしまった作品。「種死」と揶揄されるのも仕方ない、個人的には、宇宙世紀を除いたガンダムTVシリーズでAGEを押しのけての最下位更新。